schopenhauerのブログ

唯識とショーペンハウアーの研究

銀河系調査隊<改変版>

初めて火を起こした原人は焼いた肉を食べてからじっと手を見た。それから首を上げて星を見つめた。


地球歴二十万二千二十三年、二百年振りに調査隊が結成された。前回は球状星団だったが今回は銀河系の中心の反対側辺境の調査である。球状星団は古い星が多く期待されたが古い地域では生物は死滅しており文明の痕跡も皆無に近かった。


科学者は生物学者と歴史学者のみで約三百人、それに軍人約七百人一般人約八百人だった。一般人には家族も含まれていた。


宇宙船は古くから使われている中型の球型船で直径二百七十メートル、側面に直径三十六メートルのやはり球型の船が六個内蔵されている。


この時代、人間の平均寿命は二百四十才である。二百年ごとに調査隊が結成されるのは寿命と関係があった。それは抽選ではあるが一生に一度機会が与えられるという事である。


現在地球の人々は経済問題から解放されていて自由な職業に就くことができていた。職業は趣味とほぼ同じであったが、意に沿わない仕事もあった事はあったのである。


宇宙生物学の原因宇宙生物学と原因知性生物学はおおよそ解明されていた。原因宇宙生物学というのは宇宙生物学でその生命の同一性を原因から解明したもの、原因知性生物学は知的生命の同一性を原因から解明したものである。この二つの学問は元素がなぜ生命になり知性になるのかに科学的根拠を与えたので通称で原子生物学と呼ばれている。


原子生物学の仮説は何百万回かの調査によって宇宙にはある生命形態以外はないということが証明されていた。


人類が一万光年を数年で航行できるようになってから十九万年経つ。


この間行われた生命調査では宇宙はその環境があれば容易に生命の発生が可能であるが、ただ殆どは単細胞生物のみであった。多細胞生物の発生の試みは常に行われているが環境によって維持が困難ということがあった。ただ多細胞生物系は発生してしまえばとても多様で生命力に溢れている。


これと同じように知性の試みも常に行われるのだが、環境への動因の継続が困難なのだった。


遺跡調査による全うした知的生命のその種の寿命は百万~二百万年程度が多い。これだと銀河系に知的生命が十万発生したとしても出会うことはまれである。さらには宇宙人の遺跡の調査ではその九割以上が自然科学発生後数百年で滅んでいる。


哲学者はこれらの説明のために、時間と空間、数学、五感、概念や論理を無意味化した。そういう与えられている認識能力や形式では生命を説明できないと考えた。


生命や知性を作っているのは宇宙であって人類はそれに関知していない。哲学者は人間の立場ではなく宇宙自身になって生命を捉えようとしたのであった。


宇宙人の遺跡の研究は面白かった。中でも終わりを全うした文明の遺跡は役にたったのである。その文明はある特徴があり科学技術は高度なものであった。


ただその文明が広範囲に拡張されたという形跡がなかった。その範囲は近い恒星系に限られ母星に比べて人口はかなり少ない。


当然考えられるのが経済が十分豊かになれば、経済の豊かさや富の蓄積を目的化する個体が少なくなって、共同体の目的もそうではなくなるだろうという事だ。


自分の種族を何が何でも保存しようという気もなかった。どうも滅亡を伸ばそうとした努力の跡、その形跡がない。滅亡を滅亡にまかせ受け入れたように見える。


宇宙人が何を考えたかまでははっきりしないが、幸福とは何かが解明され個人がそんな生き方ができてもう久しい文明だからだろうと言われている。


二百年に一度の銀河の調査隊は明日出発だ。往復十七万光年調査を含め約五年の旅である。


銀河系調査は最小限必要とされていて二百年に一度行われる。これは分類生物学や考古学に特に関心がある者の為だけの戯れの行事だったが抽選で選ばれた者は大喜びだ。


しかし軍人や一般人約千五百人にとっては普通の仕事や生活よりも忍耐を強いられるものだったのである。